ポイント6 第三者のかかわりを取り入れる

親だけではなく、第三者を入れる

家庭の中で安定して過ごせるようになった頃、何か家の中でできることをやらせほうが良いかもしれないと考える保護者の方は少なくありません。これまで見てきた通り、「不登校のきっかけ」が未解決のまま残ると、それが「不登校を継続する理由」となってしまうため長期化する前に課題の解決に手をつけることが必要です。
子どもが大人へと成長する過程でかかわる人間が親だけではないように、お子さんを学校復帰まで導くためには役割や立場の異なる人がそれぞれの強みを活かしてお子さんを育てていく必要があります。我が子の気持ちを受け止め一緒に悲しんでやることはできても、親が直接不登校のきっかけとなった人間関係のつまずきを解消してやったり、代わりに勉強をしてやるわけにはいきません。親の理解と協力してくれる姿勢は子どもにとって何よりの心の拠り所になりますが、お子さんが直面している具体的な課題を解決するためのかかわりは違う立場の人が担うように役割を分けることが望ましいのです。
しかし、いざ何か始めようと本人に提案して「どうする?」と聞いてみても、拒否されることが多いということも事実でしょう。そうなったときに、「いままで気持ちに寄り添ってきたけど、もっと厳しくすれば良かったかもしれない」「本人がやる気になるまでもうしばらく様子を見るか…」と、親自身がこれまで行ってきた対応の仕方に自信をなくしたり、疑問を感じるようになると、行動するという判断を保留にしてしまい時間ばかりが経過するという事態が起こりやすいのです。お子さんが親の提案を拒否する方に流れてしまわないように、上手く第三者がかかわれるようにつなげていく工夫が必要です。

助けて欲しいけど、それも言えない…

親の提案を退ける子どもも、本当に何もして欲しくないかというと、必ずしもそうではないと思います。そっとしておいて欲しいという気持ちは確かにあるものの、一方で助けて欲しい、何とかしたいという思いも持っているものです。再び文科省の*1調査から、中学3年生の時に不登校だった子たちへ当時支援があればどのような支援を必要としていたかを、5年後に尋ねた結果を紹介します。
回答は、「心の悩みについての相談」(32.0%)、「自分の気持ちをはっきり表現したり、人とうまくつきあったりするための方法についての指導」(30.7%)、「学校の勉強についての相談や手助け」(24.5%)、「友人と知り合えたり、仲間と過ごせたりする居場所」(24.4%)、「進学するための相談や手助け」(22.3%)と、心の悩みや人間関係、学習や進路についての支援を求めていたことが分かります。(複数回答可)
さらに同*2調査の中の本人への聞き取り調査からは、楽しい学校生活なら学校に行きたかったという切実な思いが伝わってきます。

「もったいないことをした。行っておいたら楽しかったのかなとか」
「他の人ができない経験ができたのは良かったと思っているが自分の進路が狭まってしまった」
「後悔したところで取り返しがつかない。後悔しないようにしている」
「いま勉強できて幸せということに繋がっていると思う。自分自身が周りの人にちょっと声をかけることを覚えた」
「人とのかかわりというものをもっと勉強しておけばよかった。人とちゃんと向き合って話しておけば良かった」

「自分には必要ない」「学校なんて行きたくない」という言葉が口をついて出たとしても、それはお子さんの本音ではないかも知れません。
しかし、学校生活から逃れざるを得なくなって不登校になった子にとって、学校復帰に向けて何かを始めるということは怖いことでもあります。「行けるなら行きたい」でも「行かなくていいなら行きたくない」という矛盾した気持ちがあり、その間を揺れ動いています。
だからこそ、「誰かに来てもらおうか?」「通える場所を探そうか?」という提案を聞くと、かつての学校生活を脳裏に描いて不安になるのです。もし、その提案に賛成したら、「必ずやりきらなくてはいけないのではないか」とプレッシャーを感じたり、「自分に本当にそんなことができるだろうか」と自信が持てないために、拒否をして問題に直面することを避けようとするのです。
仮に「やってみる」と言ったとしても、できなかったときに「自分で決めたことでしょ!」と責任を負わせようとする対応は良くありません。助けて欲しいと言えないのは、手助けを求めたところで自分に実行できる自信がないからそれも言い出せずにいるという状態なのです。

中学校3年生時の支援のニーズ
問7 中学校3年生の時、次のような相談や手助けなどがあればいいのにと思ったことがありますか。
あてはまるものすべてに○をつけてください。

*1,2不登校に関する実態調査報告書―平成18年度不登校生徒に関する追跡調査報告書―(平成26年7月)より

ナナメの関係からのかかわり

強く言うと拒絶するようになり、見守っていると前向きな変化がない状況を改善するのは確かに難しいことではありますが、できないことではありません。不登校から抜け出すために必要なのは、なかなか行動できないことを許し、根気強く一緒に行動しようとする第三者の存在です。お子さんと一緒に歩む第三者の役割として、以下の3つが求められると考えており、私たちのアソシエイトにとっても追いかけるべき理想としています。

1.理解者としての役割

年齢が近い、性格が合う、興味が一致している、似たような体験をしているなど、お子さんが共通点を見出すことができ、身近に感じられる存在であることが重要です。いまの自分を変えようとしている人、治そうとする人と捉えられてしまうと、一緒に行動を起こす土台となる信頼関係を築くことが難しくなる場合があります。学校の先生の家庭訪問や病院の診察を嫌がることがありますが、それは、いまの自分を否定されるのではないかという不信感や警戒心があるからです。教師やカウンセラー、医師であっても、先生と生徒、治療者と患者という関係性を避け、味方になることができれば理解者として寄り添うことができます。
理解したい、味方になりたいという思いからかかわり、タテの関係(目上と目下の別がある関係)でもヨコの関係(同等だが競争相手の関係)でもない、「ナナメの関係」を築くことで、相談がしやすくなり、アドバイスも受け入れられやすくなっていきます。

2.モデルとしての役割

子どもが大人へと成長するためには、見本・お手本(モデル)とする存在がいないと、自分の成長を思い描けず、方向性を見失いがちになることがあります。特に思春期には憧れの人に影響を受けて行動やしぐさをまねたり、少しでも近づくために良いところを取り入れようとして心が成長していきます。
親や教師ももちろんモデルになりますが、20~30年後の姿に自分を重ね合わせることができない場合もあります。近いモデルがいれば、学校生活の中での人間関係をどのように作って行くか、勉強をどう進めるか、進路はどんなふうに選んだか、お子さんにとって身近なことについて具体的なイメージが描きやすくなります。

3.伴走者としての役割

第三者の役割として最も重要なのが一緒に行動する伴走者としての役割です。お子さんが「やらなきゃいけない」という思いと「やりたくない!」という気持ちとの間で板挟みになって動けなくなっているときに、その気持ちに理解を示し、「一緒にやってみよう」「だったら、こうしてみたら?」と言って聞かせるだけではなく、一緒に行動する姿勢を見せ、少しずつ行動を促していくことが大切です。お子さんが「一緒ならできるかもしれない」と感じて、どんな小さな目標であっても実際に取り組むことができたときからどんどん行動が変わっていきます。

自信を持ったり、同世代と交わって行くためには、「心の問題」だけでなく、実際に学校生活を乗り切るための、“武器”を持つ必要があります。教科の学習を通して基本的な学力を身につけたり、人間関係の経験を積み重ね、「心の成長」を促していくことが本当の不登校の解決に繋がります。家庭という守られた「ウチ」の世界から、家族以外の第三者とのかかわりがある「ソト」の世界につなげるための後押しを親が担い、その後押しを受けて第三者が信頼関係を作り、学校復帰に向けてお子さんと一緒に取り組む役割を担うように、それぞれの立場から家族と第三者が協力し、お子さんを支援する両輪となるということが重要なポイントなのです。