ポイント4 一歩踏み出しても下手に褒めない
学校に行ってみようと思うけど、実際不安…
お子さんの気持ちに理解を示し、受容的にかかわることができてくると、お子さんは自分の感情や考えていることをいろいろ話してくれるようになります。その中には「学校どうしようかな」「行ってみようかな」というように登校に前向きなことを言うこともあります。ここまでの段階に回復するまで、お子さんに寄り添い、時に受け入れ難い親への不満や怒りも受け止め、「やっと学校に行く気になってくれた!」と、喜びもひとしおだと思います。しかし、ここで「学校に行ってみようかな」という言葉だけを切り取って、「良かった、安心したわ!」「そう言ってくれて嬉しいわ!もう大丈夫ね!」とお子さんの前向きな気持ちの部分だけを褒めそやすようなことはしてはいけません。
お子さんに前向きな気持ちが芽生えてきたことは間違いありませんが、同時に、「ずっと休んでいたから変な目で見られるかな」「勉強や部活にはもうついていけないかもしれない」「また行けなくなったらどうしよう」と様々な不安が起こっていることを知っておく必要があります。
家族以外の第三者と面会することや外出、登校を試みるときなど、何かを決断し行動しようとする時には、「やってみよう!」という前向きな気持ちと「できないかもしれない」「やめてしまいたい」というような逃避的な気持ちとの両方がお子さんの中に混在するアンビバレンツ(両面価値的)な状態になっているために、なかなか決断できなかったり行動が起こせなかったりするのです。
このときに、「自分で行くって決めたんでしょ!」「やるって言ったよね!?」と迫ると、ますます行動できなくなり、「良い子でいないといけない」というメッセージを与えて追い詰めることになりかねません。
大切なのは、一歩を踏み出してもまたつまずくことはある、と親が落ち着いて構えておくことです。お子さんが勇気をもって一歩を踏み出そうとしていることはとても立派なことですが、再度のつまずきが許されないと思わせるような褒め方にならないように注意が必要です。
「見守る」ことの本当の意味
お子さんが一歩を踏み出せるようになるためには、ポイント3で書いたかかわりの「子どもがいつでも助けを求められる存在になる」ことから一歩進んで、「子どもが助けを求めてきたときに力を貸す関係性」を心掛けることが大切です。
お子さんが不安に思っていることをいろいろ話してくれるようになると、「こうしてみたら?」「こうするのはどう?」とついついアドバイスをしてしまいがちです。それでも行動ができないと、「そうじゃないでしょ!」「こうしなきゃ!」と指示的になってしまう場合がありますが、あまり親が干渉しすぎると、お子さんは自分の考えを親に言えなくなり、また、直面している問題を自分自身の問題として考えることができなくなっていきます。
お子さんにとって、親が「助けを求めることができる存在」になると、これから先のことを考えて不安になったときに、話を聞いて欲しいという態度を示すようになります。これは、「否定的な自分」から「肯定的な自分」へと変わろうとしている兆候ですから、親は子どもの否定的な部分よりも肯定的な部分に目を向け、自信をつけてあげる必要があるのです。つまり「できない」という結果を批判するのではなく、「やろうとしている」という過程を認め、親が力を貸しつつ、子ども自身に一歩を踏み出させることが重要です。うまくいったらもちろん褒めてあげれば良いですが、たとえうまくいかなくても、失敗を受け入れて「また一緒にやろうね」と言えることが「見守り」なのです。
不登校とは、何か目的を持ったり、誰かと交流することから距離を置いて自分を守っている状態です。学校や学習を放棄し、誰にも何も言われないように自室のこもる状態というのは、これ以上自分を脅かされないようにする行為なのです。しかし、家族が自分のそのような状態に理解を示してくれるようになると、リビングに出てきて話をするようになるという変化があると思います。一方で、学校の話題ができるようになって第三者もかかわれるようになったけれども、ふとしたきっかけからまた自室にひきこもりがちの生活になることもあるでしょう。
これは、受け入れられているという安心感があるとそれが希望になって前進するが、不安なことがあると後退するということを繰り返している状態なのです。後退しているときに無理に刺激を与えて引き出そうとすることは逆効果であり、後退した時にこそ理解を示し、安心感を与えるという対応が必要です。(図3)
最終的に学校に復帰する際も全く同じことであり、人間関係や学習でつまずきがあったときには、お子さんの感じていることに理解を示し、安心を与えて送り出すということを繰り返していかねばなりません。3歩進んで2歩下がるような動きというのは、後退しているようでも着実に1歩ずつは前進しています。家族との交流、信頼できる第三者のかかわり、複数の同世代の子たちとの関係構築など、段階的に活動の範囲広げていくことが不登校解決の重要なポイントなのです。