ポイント1 すぐに学校に戻そうとしない

学校に行かせたい

お子さんの不登校が始まると、「何とかして学校に行かせなければ!」という保護者の方の焦りが強くなっても無理もないことだと思います。しかし、心理的な安定度が崩れ、登校できない状態にあるときに、学校に行かせようとしてしまうと、かえって状態が悪化し、不登校が長引く原因を作ってしまうことがあるということを知っておかなくてはなりません。

学校に行くように促したり、あるいは直接的に学校に行かせようとしなくとも学校や学習、進路の話題を投げかけ刺激を与えることを「登校刺激」と言います。登校意欲を育てていくために必要なかかわりであることは間違いありませんが、登校刺激をする時期を間違えると、さらにお子さんの心理的な安定度を崩し、回復までより長い期間を要することになる場合があります。
中でも特に気をつけるべきことを挙げて行きます。

してはいけないこと

学校に行かせるために、強制力を働かせる(「だます」「おどす」「物でつる」)ような対応はしてはいけません。例えば、学校に行かせるために「明日学校に行かないと、留年になるよ!」と嘘の情報で動かそうとする、偶然を装って学校の先生と面会させる、などが「だます」ということにあたります。
「学校に行かないなら、働け!」「明日学校に行かなければ、ゲームやスマホは全部壊す!」と威圧的な態度をとることも、逆に「好きなものを買ってあげるから、頑張って行ってみようね」など物やお金を与えることで気持ちを動かそうとすることも避けるべきです。
なぜならこのような対応では、お子さん本人のつまずきの原因となっていることは、何も解決していないため、仮に数日登校したとしても、長続きしません。また、お子さんの中に「だまされた」「おどされた」というマイナスの感情ができると、学校復帰を支えるための土台になる親子の信頼関係が崩れ、コミュニケーションが取れなくなる恐れがあります。

登校を強制する対応がさらに続くと、自室へひきこもりがちになる、昼夜逆転の生活になる、家庭内暴力や自傷行為が起こるなど様々な問題が引き起こされる可能性があります。このようなお子さんの行動には、これ以上自分が脅かされないように、閉じこもったり、親との生活時間帯をずらして自分を守ろうとする意味、家族へ暴力を振るったり、自分を傷つけたりすることによって、苦しさを表現しているという意味があります。

どうすればいいのか

学校復帰を達成するための、最初の目標は、「一緒に乗り越えて行こうね」と子どもの味方になることです。そのためにはまず、「こうあらねばならない」という親の先入観が強すぎないか振り返ってみる必要があります。

学校に行けないよりは、行けた方が本人のためにもなることは間違いありません。しかし、「朝起きることは当然のことだ」「学校に行かないなんてことは許されるはずがない」と、親の先入観から正しいか間違いかという評価を下していくと、「どうして朝起きられない状態になっているのか」「どうして学校に行きたくないと言っているのか」という、お子さんの中でいま何が起こっているのかということに関心が向かなくなります。

お子さんの中で何が起こっているのかを理解しようとすることが全ての始まりであり、その中に解決のヒントがあるのです。

何らかの原因で心理的安定度が崩れていき登校できなくなるまでの前駆期や学校を休み始めたことでさらに落ち込みが激しくなる進行期において、早期に受容的な対応を行うことで心理的な安定度の低下は一定のところで留まってきます。(図1)しかし、この時期に刺激をし続けると、さらに心理的な安定度が低下し、頭痛、腹痛、吐き気、発熱等の身体症状が激しくなったり、ストレスによる神経症(強迫性障害、摂食障害、自傷行為等)を発症したりする恐れがあります。

心理的安定度の低下が深ければ深いほど回復には時間がかかります。焦って刺激をするよりも、いまの状態を受け入れる方が不登校の解決は早くなります。
しかし一方で、意欲は湧かないものの家庭では落ち着いて過ごせるなど「底での安定」を迎えたときに、そのまま様子を見てしまうと回復の目途が立たず膠着状態となり不登校が長期化していきます。
親子のかかわりから始め、不登校を継続する理由になっている「人間関係のつまずき」や「学習のつまずき」を解決する取り組みを始めていく必要があります。