今回はご相談やご質問の多い、父親・母親としての対応についてまとめます。小学生・中学生・高校生の保護者の方にも学年を問わず参考になるポイントをまとめています。次回8月の土曜講座「子どもの心を育てる母性性・父性性の役割」で詳しく触れる内容となっていますので事前に読んでご参加いただくとより理解が深まると思います。

親自身が自由になる

 父親・母親という存在は子どもにとって偉大な存在です。親との精神的な繋がりが子どもを支える力となったり、逆に親の言葉が子ども縛ってしまったりすることもあると思います。あるいは、親との関係が希薄なために将来の目標を失いかけている子どもの話も聞きます。

 親は子どもに大きな影響力を持っているということを、親自身がわかっているからこそ子育てに力が入ってしまうことがあります。

また、家庭の中で、父親という存在はかくあるべき、母親という存在はこうでなくてはならないという文化的、社会的な「父親」「母親」の役割を意識し過ぎて本心から子どもとかかわれなくなってしまうことがあるかもしれません。

「正しい」父親像・母親像から外れることを恐れる気持ちや、自分が親に育てられたようにしか育てられないという思い込みが親自身を苦しめ、抜け出せなくなっている場合もあります。

 しかし、いくら正論を言ったところで、現実にはどうすることもできないこともあります。できないことや間違っていることばかりを見つめて落ち込むのではなく、これから先のことを考えるべきです。まずは親自身が他人から批判される恐怖やあるべき姿のイメージから自由になって、自信を取り戻すことが必要です。子どももお父さん・お母さんが元気でいてくれることが嬉しいし、優しく力強い姿を頼りにしています。

 親としてのあるべき姿ではなく、母性性と父性性という2つのキーワードから子どもとかかわるヒントをお伝えしたいと思います。

母性性と父性性とは

 子どもを育てるための養育者としての機能のことを親性といい、そのうち父性的な原理を「父性性」、母性的な原理を「母性性」と呼びます。男性の中にも女性の中にも母性性と父性性の両方が存在し、ひとり親でも両方の原理を使って子育てをします。

 母性性とは、「全てを包み込む」働きを持つ母性原理を意味します。子どもの全てを受け入れる豊かな優しさであり、子どもの苦しみや悲しみを除いてやりたい、求めるものは全て与えてあげたいと思う深く豊かな愛情のことをいいます。一方、父性性とは、「切断する」働きをもつ父性原理であり、ものごとの善と悪、適格と不適格など、社会的な規範や秩序など教え、自立を促す強い愛情のことをいいます。

 著名な心理学者である河合隼雄は、母性原理が「わが子はすべてよい子」という標語によってすべての子を育てようとするのに対し、父性原理は「よい子だけがわが子」という規範によって子を鍛えようとする*1、と母性性と父性性の違いを説明しています。

 この二つの愛情は、一見すると相反するように思われますが、子どもの心を自立に向けて成長させていくためには母性性と父性性のどちらのかかわりも必要になります。

*1 『母性社会 日本社会の病理』 河合隼雄 講談社α文庫

受容することだけが優しさではない

 子どもの気持ちを受け止め理解しようとする母性原理からのかかわりは、子どもの心的エネルギーを回復させるための基本的な姿勢であり、どんな時も根底にはなくてはならない態度ですが、母性性の対応が行きすぎてしまうと子どもの成長機会を奪ってしまう場合があります。

 子どもの心の中にはより良い存在になろうとする人間本来の力が備わっています。しかし不安になっているときには、一番信頼できる存在である親に信じてもらえるから再び自分自身を信じることができるようになります。

 同じ目線に降りて、子どもの不安を受け止め、励ますように繰り返し安心感を与えることで子どもは安定していきます。しかし子どもを庇おうとする親の気持ちが先行すると、子どもの気持ちに寄り添っているようでも「大丈夫?無理しない方がいいんじゃない?」と逆に子どもの不安を大きくして、頑張ろうとする意志を挫いてしまっている可能性があります。

 一歩を踏み出させるためには、心の癒しだけでなく、刺激することを恐れず、見たくないものを見つめる強さを教えることも必要です。苦しい時にあきらめないことの大切さ、負けてもまた立ち上がることの価値など、形式的な言葉ではなく子どもとのかかわりの中で親の想いをきちんと言葉にして伝えることがポイントになります。

父親と母親の同一性

 子どもが行動してみようか決断を迷っているときや、刺激(ショック)を受けて心に不安が起こると、身近な存在である親はどう思うか反応を確認しようとします。その時に父親と母親、それぞれから基本的に同じ反応が返ってくれば安心して、行動しやすくなります。しかし、母親が子どもの気持ちに理解を示して賛成しているところに、父親が無理解に反対するような真逆の対応になると、どうしたら良いかわからなくなり結局立ち止まってしまうことがあると思います。

 例えば、子どもがアニメーターに興味を持ち始めて、どんな学校に進学した方が調べていたところ、憧れの気持ちは高まる一方で、自分にそんなことができるのか自信がなくなったり、そもそも将来きちんと職について自立できるのか不安になっていたとします。

 母親に打ち明けたところ「やりたいと思えることがあってよかったじゃない、お母さん応援するね」と、母親は賛成の姿勢を見せてくれた。父親の方は「アニメーターになりたいという気持ちは尊重して学校のこともサポートするよ。ただし、進学に向けて生活も変えて行こうな。」と条件付きだが基本的に応援すると言ってくれた。

父母の一致を確認する子どもの心理のモデル 牟田武生の許諾により使用

 この話の場合、母親と父親の対応は全く同じではありませんが、子どもの夢を応援したいという気持ちは基本的に一致しています。まず子どもの希望や不安な気持ちを受け入れる母性性の対応が先にあり、子どもの意志を具体的な行動に繋げさせようとする父性性の対応が続くことで、目標に向かって具体的に動き出す必要があることも共有できます。

 このように母性性の受容的なかかわりと、父性性の指導的なかかわりがうまく噛み合うと、次の一歩を促しやすくなります。

 次に父親と母親の意見が対立している場合(不一致)を考えてみましょう。

 子どもの希望を応援した方が良いかやめさせた方が良いかで言い争いになるようなことが起きると、自分の気持ちに自信を持つことができないばかりか、喧嘩の原因になるような希望を持ったことに罪悪感を抱く場合すらあります。

 また、父親も母親も「やりたいなら自分で決めなさい」と意志は尊重してくれるように見えても、両親の配慮によって表面的に意見が一致しているだけの場合では、それを子どもが見抜いてしまうため、同じく行動につながらない場合が多くなります。

 父親と母親の間で意見が異なることは悪いことではありませんが、夫婦間で考え方が違うところ、一致しているところについて忌憚なく話し合う関係を作っていくことで、子どもへの対応についてお互いに協力できるようになります。

自分を許す心・鼓舞する心

 いくら頑張っても自分自身を認められず頑張り過ぎてしまう子も、今の生活を変えるための一歩が踏み出せない子も、必要なのはできない自分を許す心と、時には勇気が出ない自分を鼓舞する心をもつことです。そういう心は親から受け取る母性性の優しい愛情と父性性の強い愛情によって育まれてきます。

 家の中で安心してくつろぐことも必要だし、学校や社会の中でチャレンジを経験する必要もあり、どちらか一方だけが正しいということはありません。しかし今の生活やものごとの感じ方・考え方が当たり前になってしまうと、どちらかのバランスが崩れていることに気がつくことがもしかしたら難しくなるかもしれません。

 しかし、それでもなお重要なのは、何かを変えなければならないタイミングに差し掛かった時に今まで正しいと思っていたこと、当たり前だと思っていたことを考え直してみることです。もしかしたら子どもを受け止めることと、刺激を与えることとのちょうど良いバランスを取ることなど不可能なのかもしれません。でも、行き過ぎてしまった時には立ち止まり、立ち止まったままになっている時には歩き出す必要があります。

 包み込み癒そうとする母性性と厳しく鍛えようとする父性性の二つが親自身の中にも子ども自身の中にもあることを思い出してみてください。現状を変えるきっかけは心の中にもあるのです。

文・Allight Education 代表 平栗 将裕

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