不登校の人数は増え続けている
小・中学校における、不登校児童生徒数*1は181,272人(前年度164,528人)となっており、7年連続で過去最多を更新しています。内訳は、小学校では53,350人(前年度44,841人)中学校では127,922人(前年度119,687人)となっています。
文部科学省の定義によると、不登校とは年間30日以上の長期欠席者のうち病気や経済的理由を除く欠席を指します。学校の年間の授業日数は約85%の学校で196〜205日の間に収まるため、仮に年間授業日数を200日とすると、年間30日の欠席は全体の15%にあたります。1年を通して同じペースで欠席していくと、およそ週に1日欠席するかしないかという登校状況に相当します。年間30日ならそれほど多く休んでいるわけではないような感じもしますが、一方で、年間90日以上欠席している生徒が、不登校の生徒全体の55.6%に上り、人数では100,857人になります。90日という日数は全体の授業日数の45%に相当するため、約10万人の小・中学生は、1年のうち学校で学ぶ時間の半分近く、もしくはそれ以上を失っているということになります。
高校生の不登校の人数は50,100人(前年度52,723人)となっており、人数としては近年横ばいが続いていますが、高校生では不登校が増えていないというわけではありません。例えば、全日制高校では、単位取得のために履修科目ごとに授業時間数の2/3以上の出席が必須となり、欠席(欠課時数)の上限を超えてしまうと単位が取得できなくなり、ほとんどの場合進級ができなくなってしまうため、留年、転学(転校)、休学や退学などの選択を余儀なくされます。
4〜5月に不登校が始まった場合、夏休み明けの9〜10月には進級の可否が分かってくるため次の進路に向けて舵を切る必要があります。高校においての不登校の人数は、統計上増えにくいという構造があるのです。
一方、通信制高校の生徒数*2は増加傾向にあり、206,948人(前年度197,696人)となっており、2年連続で過去最多を更新しています。割合としては、高校生の16,7人にひとりが通信制高校に在籍している比率です。通信制高校の入学者の半数は、転入学と編入学による入学者であるため、生徒数増加の理由の一つに、高校生の不登校の増加が関係していると考えられます。
現在、小中高を合わせて231,372人の子どもたちが不登校になっており、不登校になること自体は決して珍しいことではなくなりました。学校に行かないという選択が以前よりずっと尊重されるようになってきましたが、23万人の子どもたちがより良く学ぶためにはどうすれば良いかということは依然大きな問題です。
*1 令和元年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導等の諸課題に関する調査結果について令和2年10月
*2 令和2年度 学校基本調査 通信制高校の年齢別生徒数 令和2年12月
不登校は次の学年でも続く可能性が高い
下の表は、学年ごとの不登校の人数と前年度から不登校が続いている人数、そしてその相関を表したグラフです。学年が上がれば上がるほど不登校の人数は増え、前年度から不登校が継続している子の数も増えていく傾向がはっきりわかります。
前年度から不登校が継続している子の人数と、前年度の前学年における不登校の人数を計算すると、どのくらいの割合の子が前年度に引き続き不登校になっているかがわかります。その割合を示した上部の折れ線グラフは、不登校の継続率を示しており、一部減少する学年はありますが、おおむね学年が上がるほど不登校が継続する可能性は高くなる傾向があることが読み取れます。
学年が上がると不登校の人数が増える一つの理由は、学年が上がるにしたがって、学校で取り組むことの内容が高度になっていくということがあげられます。学習内容はもちろんのこと、運動でも、人間関係でも、子どもの成長に応じて、より高度なこと、より多くのことに取り組んで能力を伸ばしていくことが学校教育の基本的な目標になります。
できることを増やしていくこと自体は必要なことだと思いますが、現状が追いついていないにもかかわらず目標だけがどんどんストレッチしていけば、適応できなくなっても仕方がありません。
しかし苦手なことや自信がないことについてフォローしてもらえる時間があったり、アドバイスや話を聞いてくれる存在がいてくれれば状況は変わるかもしれません。
実際に、不登校から復帰した子や、不登校になりそうなところを踏みとどまった子は、そのような機会を得てひとまわり成長することによって不登校を乗り越えることができています。不登校になる原因や経緯は様々ですが、不登校が継続するか、解決するかは、現状の問題に取組む機会に恵まれるかどうかということに左右されるところが大きいのではないかと思われます。
不登校を経験した子の進路の状況
中学校より先の進路について、実際どのくらいの人が進学や就職をしているのか見てみましょう。
不登校に関する実態調査*3によると、中学3年時に不登校だった生徒が中学校を卒業した年の4月に高校に進学した割合は85.1%となっており、高校進学率は比較的高い割合です。しかしながら学校統計調査報告書*4によれば、東京都の公立中学校の卒業生の高校進学率は99.1%であり、やや開きがあります。
中学3年時から5年後の20歳になったときの就学状況*5では、大学・短大・高専等へ在籍している人の割合は22.8%ですが、全国平均*6の58.8%と比較すると半分以下の割合となっています。就業状況については、正社員として就業している割合は9.3%となっており、20〜24歳の就業者の正規職員*7の比率39.2%と比較すると大きな開きが見られます。さらに、全体の18.8%の人が20歳時点で就学も就業もしていないという結果になっています。
また、不登校経験の有無とひきこもりの関係について検討した調査*8では、不登校経験のある人のほうが、ない人に比べ、明らかにひきこもりを経験する率が高く、不登校を経験するとひきこもりを経験する人が多くなることがわかっています。
ここまで様々な調査の数字を見ると、不登校を経験した子のうち一定の割合の子が進学や就職などその後の進路においても影響を受ける可能性があることがわかります。しかしその後の進路においてマイナスの影響を受けずに進路を実現している人もいるため、悲観する必要はありませんが、この違いがどこで生じるのか、どうすれば進路の行き詰まりを回避できるかということを考え、行動に移して行かなければなりません。
*3 不登校に関する実態調査 平成18 年度不登校生徒に関する追跡調査報告書 平成26 年7月
*4 令和2年度公立学校統計調査報告書 令和2年10月
*5 不登校に関する実態調査 第15章 現在の就業・就学状況
*6 不登校に関する実態調査 20 歳人口のうち「大学・大学院・短大・高専」に在学している者(2010年の国勢調査)
*7 不登校に関する実態調査 20~24 歳の年齢層全体における正規職員の比率(2010年の国勢調査)
*8 令和元年度 子供・若者の意識に関する調査 令和2年7月
不登校の進行と回復
不登校が始まって本格化するまでの前駆期〜進行期という時期は学校というストレスの原因から距離をとって心身を守ろうとする反応が強いので、休ませないようにすることは困難です。不登校が始まったときに、親は不安から学校を休むという事実にばかり着目しがちですが、どうして学校に行きたくないのか、何か事情があるのか、子どもの胸の内を話してもらえるかどうかということが極めて重要です。
子どもに受容的な態度で接した結果として一時的に休みが増えたとしても、親は味方であり一緒に解決して行こうという気持ちであることが伝われば、それ以上不登校は進行しなくなります。
どうしても辛い時はたまに学校を休みながら、悩んでいることの解決に向けての取組みを進めていくことで、次第に元気を取り戻し、欠席する日数が減っていくことがあります。学校で悩みがあっても親や友達、教師などが味方になることで、不登校になることを未然に防ぐことができる場合があるのも同じ理由によるものです。
一方、原因がはっきりせず、不登校が長期化に向かっていく可能性がありますが、不登校の原因や理由を子どもが話したがらない場合やうまく説明できない場合には、無理に聞き出すことは避け、話せるようにあったら話してほしい、いつでも味方でいるということを伝えながら、学校に行かない時間を、心身の休養とこれから先のことを考えていくための時間と捉える必要があります。
しかし不登校の状態が進行し「独自のルールで生活」する段階に入ったら、この状態が継続しないように特に注意が必要です。この段階では学校のことを話題に出さなければ、家庭で落ち着いて過ごすことのできる状態で、肯定的に捉えれば、心身の休養が取れ回復期へと移行していくときであり、「学校にいくことはできなくても、せめて勉強はしておこう」と考えて自主的に学習をする子もいます。しかし一方で「学校に行く必要はないのではないか」「今の好きなことをしている生活が自分らしい本当の生活ではないか」という思いもあり、考え方が変化してくるときであり、この時に「見守る」対応をしてしまうと、膠着状態に陥る可能性があります。
さらに学校やこれからのことを話すことを避けているうちに、誰も忠告してくれる人がいなくなり、ますます社会的な常識の観念から知らず知らずのうちに離れていきます。とあるきっかけから親しくしていた人との関係が途切れると、家族以外の人との交流がなくなり、外出する予定もないので、家にひきこもりがちな生活が始まります。このように社会的なつながりがほとんどない状態が6ヶ月以上続くと、「ひきこもり」とほとんど同じ状態になります。
不登校の段階では「ひきこもり状態」が最も深刻な状態であり、人によってはこのままの状態が何年も続く恐れがあります。この状態まできてしまったら、第三者に助けを求めて、家族以外の第三者との社会的なつながりを取り戻すことから始める必要があります。
不登校の進行の7段階
現状を確認し、次の段階を目指す
まず何をすれば良いかということを考えるために、今の子どもの状態がどの段階に位置しているのかを確かめてみましょう。
下の表では、各段階の状態と次の段階に上がるための支援とその期間の目安を示しています。一気に解決しようとして焦らず、しかし確実に次の段階に上がることを目指して進めていけば、個人差はあるものの、数ヶ月の単位で1つの段階をクリアすることができます。
「ひきこもり状態」にあるなら、いきなり学校復帰を目指すのではなく、まず次の段階である家族以外の「第三者との交流」を目指します。「人が集まる場所への外出・交流」の段階までクリアしているなら、次は、学校やフリースクールなど学ぶ場所をどうしていくのか子どもと話し合い、家庭以外の所属を取り戻すことを目標に動き出す必要があります。
学校に行けるか行けないかという問題の中にも、実はこれだけの段階があります。学校に行っていない状態の中にも、家庭でできることを進めているのと、他者を全く拒否している状態とでは今やるべきことが違ってくるため、どんなことなら無理なく始められそうかという視点を持ち、今の生活にできることを加えていく必要があります。
不登校の問題は「学校に行けないこと」ではなく、目標に向かって「歩み始めることができないこと」であると思います。
同じように不登校の解決とは、「学校に行く」という結果ではなく、再登校を目指す中で子どもたちが学力や体力、そして問題解決能力を身につけて成長することであるとしじています。