前年度の子どもの状態を振り返る
子どもの不登校に対応するときに意識すべきなのは、今の学年の前後の学年です。つまり前年度ではどのような状態だったか、そして次年度ではどうなっていたいかということを考えていく必要があります。
不登校の子のうち、実際に6〜8割の子は次の年度でも不登校の状態が継続しており、しっかり意識して対応していかないと変化を作り出すのは難しいといえます。
例えば、中1ギャップといわれる現象があるように、中学校生活には小学校の生活以上の体力が必要だったり、学習の量や質も難しくなったり、新しい環境や人間関係に慣れるために大変な思いをすることがあります。小学生の生活と中学生の生活との間にギャップが大きく適応することに苦労することがありますが、学校を休んでいる期間が長ければ、中1ギャップのような障害はどの学年でも起こりうるのです。
中1ギャップが起こるのは中学校の生活の負荷が大きいからということに加えて、新しい生活に適応するための準備が前年度までにできていなかったということが考えられると思います。言いかえれば、不登校の始まりは前年度にあったということです。
前年度の後半には体力が続かない状態になって、遅刻や欠席が増えてきたり、心身のバランスが崩れてきていた場合などには、新年度に入るときに既に万全な状態ではなく新たなストレスに耐えることができなかったとも考えられます。
本当に必要な休息が取れているか
新しい学年になって欠席が増えていく場合には、登校するだけの気力や体力が不足している可能性があるので、休息をとって心身の状態を戻していく取組みが必要です。
休息を取るということは、単に学校を休むということを意味するわけではありません。どうしても辛い日は休むけれども、最悪の状態でないなら連続して休むことはしないように気をつけながら登校を続けていくという方法もあります。
塾や習い事、部活動など、あれもこれもやらなければならないことが多すぎて体力がついていっていないときは、取捨選択を断行して、休息を取る時間を確保します。
現在ほとんど学校を休んでいる状態になっているとしても、家で過ごしている時間が本当に休息になっているか、心身の回復に繋がっているか、今の生活を振り返って考えてみる必要があります。なぜならば、好きなことをして過ごしている時間が必ずしも休息になるとは限らないからです。
学校から帰ってきたり、学校のことを言われたりしてストレスを感じると、興奮した気持ちを発散するためにゲームやネットにのめり込むことが多いと思いますが、ゲームやネットも、学習や人とのコミュニケーションと同様にフルで脳を使うため、たとえ好きなことだとしても疲労するのです。
体力が足りなくて登校が続けられないなら、つまらなくても「何もしない時間」や、本を読んだり親しい人と会話をしたりするなど「頭や心を整理する時間」を作ることが必要です。
そんなことができるわけがない!楽しいことをしていれば気持ちも回復するはず!という声が聞こえてきそうですが、残念ながらそうはなりません。本当に休息が必要なときに休息ができないことで問題が複雑に発展していくのです。
ストレスがあって満足できない気持ちのせいで、楽しいことを探してネットを見続けていても、満たされないのにどんどん時間だけが過ぎていきます。さらにずっと画面を見ているので、脳が覚醒してしまい、眠い感じはするのに眠れないというような状態になり、結果として睡眠時間を減らしてしまいます。
気持ちを回復させるために好きなことをしているはずだったのに、回復に一番必要な睡眠時間を削るという行動をしてしまっています。
習慣が心や身体を変えていく
休息を取るということは、実は現代ではとても難しいことになっています。求めればあらゆるおもしろいコンテンツが手に入り、退屈することはありません。むしろ退屈することが一番恐ろしいことのように、何もしないという余白の時間を埋めるための手段であふれています。
映像や音楽、商品や食事ですらほとんど待つことなく手に入ります。それは現代の豊かさのかたちであり、私たちの求めていた幸せなのかもしれませんが、だからこそあえて生活の中に余白を作ろうとしなければ、その時間は自然には生まれてこないのです。
気力や体力を回復させるために第一に必要なのが睡眠ですが、食事や運動も重要な要素です。
ほとんど外出しなくなり、家の中でも横になっていることが多くなると、あまり空腹も感じなくなります。そうするとやがて1日2食になり、場合によっては1食になることもあるでしょう。(逆に過食になってしまう場合もりますが。)
食習慣が変わってくると、体調にも変化があるはずですが、活動量の低い生活をしていると、日常ですることに支障がないために異変に気がつかないことがあります。年齢的にも若くもともと健康であるということも気がつくまで時間がかかってしまう要因のひとつであると思います。
おかしな食生活が続くと、やがて極端に痩せたり逆に太ったり、頭が働かなくなってきたり、少し動くと息がすぐ上がるようになってきたなどの変化が現れてきますが、そのときは生活を見直すときです。
たとえ若くても、運動も外出も全然しない生活が続けば身体に異変が起こるものですが、動き出してみたときに不調に気がつくために、ますます活動したくなくなります。
病気や身体の怪我なら、じっとしていることも必要ですが、気力や体力を回復させるためには適度な運動も必要です。
身体を動かして、血の巡りを改善することで、身体に必要なものが全身に行き渡り、また不要な老廃物等が排出されて身体の良い状態が作られます。
睡眠、食事、運動そしてネットは控えるという誰もがやったほうが良いと思っていることを実践できないために回復につながる休息がいつまでも取れないという事実を真剣に考えてみる必要があります。習慣には人を縛りつける恐ろしい力があるので、積極的に意識して変えようとしなければ、次の年度も同じ生活がずっと続いていく恐れがあります。
学校に行きはじめたら生活も変わるだろうと期待せずに、学校生活を送れるだけの気力・体力を準備していく必要があります。学校に通っていた頃とは変わってしまった生活を、新しい年度の生活を意識してそこに近づけるようにすること、そして昨日までの悪い習慣をやめること、それらことが実行できるかどうかが分岐点になります。
変えるための行動を起こす
変えたほうがいいと思うこと、わかっているのにやめられないことをリストアップしてみてまずはひとつだけ選んで実行してみましょう。
そして、ひとつずつ実行していき、1年後にはどんな生活を送ることができているか思い描いてみます。理想の生活と言い換えてもいいかもしれません。きっとやりたいこともたくさんあるでしょうし、新しくチャレンジしてみたいこともこれからどんどん出てくるかもしれません。そういう理想を詰め込んで1日のスケジュールや1週間の予定を考えてみましょう。
いまの辛い気持ちが変わればいいな、人と会っても緊張しなくなればいいな、疲れにくい身体になっていてくれないかな、と理想的な状態に思いを巡らせて気持ちを前向きにしていきます。
理想に向かって行動していけば、必ず実現できるとどうか信じてみてください。「どうせ無理だ」と思うか「できるかもしれない」と思うかは単に個人の感じ方の差だけではありません。それはこれから先のいろいろな困難に対して向き合う姿勢を決定します。
「わかる」と「できる」の間
理想の生活ができるようになるまでには変化のプロセスがあります。頭で「わかっている」ということと「できる」ということには大きな隔たりがあり、このことこそが「できないからやめてしまおう」と思う原因でもあります。しかし、ある程度時間がかかることと腹を括って、今はどんなふうに生活しているかを直視することから始めます。
つまり何時に起きて、何時に寝て、何をして過ごしているのかということを振り返ってみます。このとき、「ダメなやつだ」とか批判を加えないようにすることが大事です。新しいことにチャレンジしようとやる気になっていても、惨めな気持ちになってしまうと継続できなくなってしまいます。
変えようと思っていること自体を肯定して、一歩でも進んでいることを認めるようにしていきましょう。「できていない」という結果ではなく、「できるようになってきている」というプロセスを評価するようにします。
生活の改善に取り組むときは、何もかも同時に進めるのではなく、できることからはじめて、少しずつ進んでいること、そして自分の身体に気力や体力が戻ってきていることを感じて楽しみながらやっていくことが大切です。
変化を感じる
森田療法の言葉に「内的自然」というものがありますが、自分の身体の中にも自然の回復力あるということが感じられるかどうかによっても成果が変わってきます。おかしな生活をしているうちに自分の体調についての感覚や五感で感じる感覚自体が鈍磨して、好調や不調に気がつかなくなってくるからです。
しかし生活を変えて、瑞々しい感覚が戻ってくると、体調がよくなってきていることが実感できるようになってきます。最初は親が「顔色が良くなってきたね」など良い変化をフィードバックしてあげるようにしていくと良いでしょう。
生活の改善に取り組んでいくためには、家族も一緒に取組んで、感じたことや変わってきたことについて話をしながら進めていくようにすると長続きします。
生活は毎日のことだからこそ、意識しないといつの間にか悪い方向にずれて行くことも、逆に、意志をもって良い方向に進めていくこともできます。
新学年を前にして考えてみるべきは、今までの生活はどうだったか、新年度の生活はどうしていきたいかということです。具体的に何をしていけば良いか私たちもひとりひとりにあわせて一緒に考えます。ぜひご相談ください。
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