不登校のきっかけとなる要因が複合的であるように、学校復帰に向けて準備していく課題もまた多岐にわたることがあります。心の悩みや人間関係のつまずきなどの心理的・情緒的な課題、学習や進級・進学などの進路についての課題、朝起きられない・夜眠れないなどの生活リズムについての課題など、何から手をつけて良いか迷うことも多いと思います。一気に解決しようとすると、無理が生じてうまく行かなくなってしまうことが多いものですが、適切な時期に適切なかかわりを行うことで、お子さんの回復や成長は着実に前進していきます。
無理のない学校復帰を目指すために、まず何から始めて、次に何をしていくべきかの目安にしていただければと思います。

①不登校の始まりから安定へ

学校を休み始めると、「このまま不登校になってしまうのではないか」という家族の不安や焦りは大きく、無理に登校を促してしまいがちです。お子さん本人も「学校のことを考えたくないのに気になって仕方がない」という強い緊張状態にある時に登校刺激をすることによって、親子の対立が引き起こされ、昼夜逆転が始まったり、心を閉ざして自室に引きこもりがちになることがあります。

不登校が始まった時には、不登校の理由を決めつけてかからずに、まずは親がお子さんの心身の状態に理解を示し、学校のことよりも心や体の健康が心配であるということを伝え、子どもの力になろうとしている姿勢を示します。お子さんは自分でもどうして学校に行けないか自分の気持ちが明確にはわからなかったり、「不登校になった」あるいは「不登校になるかもしれない」ということを認められず苦しんでいる場合がありあります。

このように、不登校が始まった時にこそ受容的にかかわり、できるだけ早くお子さんの気持ちを落ち着かせ、家庭で安心して過ごせるようにして行くことが大切です。このときに、お子さんの気持ちや感情に理解を示さずに登校刺激を繰り返すと、さらにお子さんの心理的・情緒的状態が崩れたり、親子の関係性にひびが入り、解決が長引く原因にもなるため注意が必要です。

②親子の共感・共生関係の構築

お子さんが家庭で安定して過ごせるようになってきたら、日常のあいさつや他愛のない会話ができる関係性を続けながら、親子が一緒になって取り組めることや、共通して楽しめる経験を通してコミュニケーションを深めていきます。
お子さんも親が味方であることがわかると、少しずつ自分の気持ちを話し始めます。この時期は、外見からは落ち着いて過ごせているように見えても、心の中には、見て見ぬ振りをしている不安や、自分がどうしたいのかはっきりしないモヤモヤした気持ちを抱えていることがあります。
そのような気持ちの一端を親に話してみて、どのような反応が返ってくるのか確認をするようなことがあります。
「去年の今頃はテスト受けてたんだよね」など突然学校についての話題を自分から言うことがあったり、そうかと思うと、「もう学校には行かない」と宣言したり、一見矛盾したようなことを言うことがあります。
これは自分の心の中で、複数の思いがあって思考がまとまらないときに、自分の感情を口に出して、それがどのように受け取られるのか確認をしている行為です。この時期からは、「そうなんだね」というような単純な受容だけではなく、お子さんの気持ちを聴いた上で、「そうなんだ、お母さん/お父さんは〇〇と思うよ」と親の考えを伝え、それについて子どもが考えるための時間を作ることが大切です。
子どもの気持ちを受け止め、親の考えを伝え、待つ、ということを繰り返しながら、少しずつこれからどうしていくかについて具体的に話し合っていきます。次の段階でお子さんに必要なことは、これまで親と子の間で気持ちや感情の確認を行ってきたことを、信頼できる第三者と行い、親子の関係とは異なるレベルで課題に向き合っていくことになります。

③第三者との接触と交流

親子の信頼関係の中で様々な話ができるようになってくると、お子さんの同世代の子が興味を持っているような話題について、友達のとしてのコミュニケーションを求めてくることがあります。また学習や進路についての心配事や疑問を親に訴えることもあります。同世代の子とのコミュニケーションや、学習、進路の指導などは、親子関係の中では一緒に取り組むことが難しくなってきます。
安心できる家庭の中に第三者が入ってくることに不安や抵抗を感じるお子さんは少なくありませんが、「あなたを心配したり大切に思う気持ちは変わらないけど、この部分は親以外の人に関わってもらうことが必要だと思うの」と親の考えを伝え、第三者を家庭に招き入れる準備をしていきます。
はじめはゲームやお子さんの好きなことについての話題でも、第三者とコミュニケーションをとる中で「悪い人ではないみたいだ」「気が合うかもしれない」と味方であることがわかってもらえると信頼関係ができてきます。
次第に第三者の前でも自由に振舞うことができるようになってくると、親にしていたような確認を第三者にもするようになります。その中で自分の考えが受け入れられたり、自分の感情が整理されてくると、対人関係そのものについても自信がついてきます。
信頼関係の中で、学習や学校のことについての話題にも及ぶようになってくると、上手に促すことで、今やるべき学習に向き合わせることができるようになります。いずれ学校に復帰する時に学習の遅れは課題の一つになるため、学力を身に着けていくことも大切です。
家族以外の第三者とコミュニケーションが取れるということや、学習などの目の前の課題に取り組めているということは、自信につながります。これまでの生活に新しいことが加わり、肯定的な自分に近づいて行っているという実感を持たせることが大切になります。

④つながりを広げる

学習や好きなことなど家の中でひとりでできることや、安心できる限られた人とのコニュニケーションができるようになってきたら、次の段階は、外に出かけていくことや、人と一緒に行う活動の輪の中に入っていくことを目指します。人目が気になると言う状態は、不特定多数の人の視線ということではなく、同級生や自分の知っている誰かに見られているかもしれないという不安です。
「学校に行っていないのに遊びになんて行けない」とお子さん本人が考えている場合や、親がそのように捉えている場合がありますが、外出が億劫だったり、恐怖感がある場合は、登校や学校行事にかかわらず、できるだけ楽しく前向きな気持ちで外出できる機会を選ぶことが大切です。知人と偶然出くわす恐れのない場所や特定の時間帯を選ぶ工夫もまた有効です。

外出や人とのつながりを広げていくプロセスとして以下の段階があります。まずは自分と直接のかかわりがない人たちが多く集まる場所(遠くの繁華街など)に安心できる人についてきてもらって外出し、誰も自分のことを見たり気にしたりしていないことを確認して「見られている」という感覚を払拭していきます。さらに、自分と共通の興味の人が大勢集まる場所(コンサート、コミケなど)に参加し、自分と同じことが好きな人たちが大勢いることの確認や、その人たちと同じ行動をとったり、同じ感情や感覚を共有できたことを確認します。
その次の段階では、同世代で安心できる人間関係やフリースクールなどの場所に顔を出し、自分の考えや感情、気持ちを伝えた時に、どんな反応が返ってくるか確認していきます。まだ慣れていない人間関係や場所の中に入っていく時には、安心できる人についてきてもらって、間を取り持ってもらうことも有効です。ここで、友達ができ積極的に自分のことを話したり、一緒に遊びに行ったり、同世代との子との人間関係自信が持てるようになったら、再登校に向けた準備が整ってきたことになります。

⑤再登校へのチャレンジ

再登校へのチャレンジは、不登校の解決の最終段階であり、新しい一歩を踏み出すその時でもあります。本人としても「もう不登校には戻りたくない」という決意を抱いていることがあり、登校初日から、周囲の子と同じように行動しようとする場合が少なくありません。これは過剰適応といって、背伸びをしていま自分の力でできること以上のことをやろうしてしまう状態です。過去の自分の姿を否定して、肯定的な自分へと変化しようとする心理があります。親としても学校復帰への期待が高まる時ですが、無理をして学校に通って行っても長続きはしません。予め登校する日としない日を決め、登校しない日には、休養をとって体調を整えるなど、自分の心と身体と相談しながら、どうしたら登校を続けて行くことができるか、お子さん自身が試行錯誤をしていく必要があります。
具体的には、週に1~3日の1〜4時間など短い時間に限定して、決まった日に通うことを目標にします。保健室や別室への登校、教室への登校など、学校の状況に合わせて登校する環境は選ぶと良いですが、登校した当日に急に「やっぱり頑張れそうだから教室に入ってみようか」など予定に変更を加えず、約束した予定を着実にクリアすることを目標にします。こうした部分的な登校から適応力をつけていくことを慣らし登校と言います。慣らし登校は、週に3日登校などの目標がクリアできたら、2週間〜1ヶ月毎に少しずつ登校日数の目標を増やし、徐々に身体を慣らしていくことがポイントです。
再登校を始めたことにより、同世代の子たちとの差を感じたり、体力的にも苦しい経験をする中で「こんな苦しい思いをするなら不登校になんてならなければよかった」という思いに駆られる瞬間も出てくると思います。しかし、学校復帰というのは、学校に「何日行けたか」という問題ではなく、再登校へのチャレンジを通して、自己嫌悪の世界から脱却し、不登校の経験を含めて自分を肯定的に考えられるように成長することに本当の意味があります。
苦しいことに敢えて挑戦している本人の気持ちに理解を示し、家族を一緒に頑張るつもりで登校を応援することが大切です。