登校刺激はしないほうが良い?

不登校が始まってある程度の時間が経ち、家の中で自由に過ごしている姿を見ていると「いつになったら学校に行けるのだろうか」「もう少し見守っていたほうが良いのだろうか」という疑問も湧いてくると思います。しかしひょっとするときっかけを待っているうちに、何ヶ月、何年もの時間が過ぎてしまい、登校を促すこと自体を諦めてしまうかもしれません。

不登校が始まったばかりの頃は、何が登校のきっかけになるか、良いと思われることはどんなことでもやってあげたいと思って動き回りますが、当の本人はなかなか提案を受け入れてはくれません。

登校を促すかかわりのことを「登校刺激」といいますが、これがうまくいかないことが続くと登校刺激をすることに嫌気が差して、「自分から動き出すまで様子を見よう」という対応に流れてしまいがちです。

しかし、登校刺激自体が悪いことなのではありません。やり方を間違えれば子どもを追い詰めることになりかねませんが、実際、登校刺激が再登校のきっかけになったという子はかなり多いはずです。

子ども自身も、学校に行きたくないと思いながらも、何かが変わるきっかけを待っていることがあります。けれども何がきっかけになるのか、何をどうすれば良いのか、心の中で考えても答えが出ないので、どうして欲しいのかも言うことができません。

そうやって出口のない迷路を歩いているうちに、考えること自体が面倒になって、思い出したくないこと、嫌なことから逃げ回る生活が始まります。

不登校のきっかけと継続理由

ある調査*1では「不登校のきっかけとなった要因」は未解決のまま残ると「不登校を継続する理由」に繋がることを指摘しています。

不登校のきっかけになったことの上位3つは、「友人との関係(52.9%)」「生活リズムの乱れ(34.2%)」「勉強がわからない(31.2%)」となっています。学校を休み始めるきっかけになったことに再び立ち向かうのはとても勇気がいることではありますが、これらの問題に何も進展がないと、やはり再登校を始める際の障害になります。実際に「不登校の継続理由」では、「いやがらせやいじめをする生徒の存在や、友人との人間関係のため(40.6%)」「朝起きられないなど生活リズムが乱れていたため(33.5%)」「勉強についていけなかったため(26.9%)」がという項目が上位回答となっており、関連が伺えます。

不登校のきっかけ
問4-1 あなたが学校をやすみはじめたきっかけは何ですか。思いあたるものすべてに○をつけてください。

*1不登校に関する実態調査 平成18 年度不登校生徒に関する追跡調査報告書 不登校生徒に関する追跡調査研究会 平成26 年7月

不登校の継続理由
問5 不登校が続く理由は、次の1から13のようなものが考えられます。
今、ふりかえってみて中学校3年生の時のあなたにあてはまると思うものすべてに○をつけてください。

*1不登校に関する実態調査 平成18 年度不登校生徒に関する追跡調査報告書 不登校生徒に関する追跡調査研究会 平成26 年7月

また「無気力でなんとなく学校に行かなかったため(43.6%)」「学校へ行こうという気持ちはあるが、身体の調子が悪いと感じたり、ぼんやりとした不安があったりしたため(42.9%)」という項目が上位2つの回答となっており、無気力や不安などの気分の不調が改善しなかったことが不登校を続ける大きな理由になっていたことがわかります。

不登校のきっかけと継続理由が関連していることは、親もなんとなく実感として感じられることだと思います。しかしだからこそ、子どもの抱えている問題を解決させてやりたいという気持ちで手を差し伸べているはずなのですが、うまくお互いの気持ちが一致しないのはどうしてなのでしょうか。

助けて欲しくてもそれを言えない気持ち

不登校の心理状態の一つの特徴として、子どものほうからは助けを求め難い感情があるということが挙げられます。学校を休んでいることで家族に後ろめたい気持ちを抱いている場合もありますが、助けを求めてしまったら、その先はもっと頑張らねばならないことになるのではないかという不安や、今の自分の気持ちや状態を否定されるのではないかという恐怖、今から何をやっても遅すぎるという諦めの気持ちがあり、差し伸べられた手を掴むことができないことがあります。

同調査で中学校3年生の時どのような相談や手助けがあれば良かったか尋ねた質問*2では、「とくにない(31.9%)」が上位でありながら、「心の悩みについての相談(32.0%)」「自分の気持ちをはっきり表現したり、人とうまくつきあったりするための方法についての指導(30.7%)」「学校の勉強についての相談や手助け(22.3%)」という項目も回答率が高く、手助けを望む気持ちもあったことがわかります。

中学校3年生時の支援のニーズ
問7 中学校3年生の時、次のような相談や手助けなどがあればいいのにと思ったことがありますか。
あてはまるものすべてに○をつけてください。

*1不登校に関する実態調査 平成18 年度不登校生徒に関する追跡調査報告書 不登校生徒に関する追跡調査研究会 平成26 年7月

対自不安と対他不安

立ち止まってしまう気持ちを理解し、再登校のきっかけを探るために「対自不安」と「対他不安」という二つのキーワードを考えてみたいと思います。

「対自不安」とは、自己否定的な状態にあり、自分に対して信頼感がない状態です。心のエネルギーの枯渇を感じていたり、体調や体力への不安があったりすることにより、行動を起こすことを避けたり、途中でやめたりすることがあります。

また、自分の感覚や考えにも自信が持てず、学校にいきたいと思っているのか、そうではないのかはっきりと自分の気持ちがわからなくなっています。

そのため、「どうしたいのか」と聞かれても様々な感情が込み上げてきて自分でもわからないため答えることができません。仮に「学校行く」と言ってしまえば、言質を取られて責められるかもしれないという不安もあります。

このような対自不安という状態に対処していくためには、心身をじっくり休めることができる環境を整えることと、心の傷を癒したり整理したりするために、親をはじめ理解者となる存在が寄り添っていく必要があります。周囲が子どもに肯定的にかかわることによって、自分自身への肯定的な感情を取り戻していくことを目標にします。
自分自身への信頼というものは、行動を起こすための内なる力になるものです。しかしそれが揺らいでしまっているため、仮に「やってみても良いかな」と思えることがあったとしても、「やっぱりできそうにない」と思っているので、「やればできるかもしれない」と思えるだけの心の体力を回復させることが、再登校のきっかけを作るためのスタートになります。

やがて対自不安が消えていき、心の体力が戻ってきてとしても、それだけでは再登校の準備として十分とは言えません。もう一つのキーワードである「対他不安」という、子どもを取り巻く外の環境についての不安について折り合いをつけていく必要があります。対自不安のように子どもの内的な世界への対応とは違って、他人や外部の環境についての不安というのは具体的な対策や手段を講じやすいため、効果が出やすいこともあります。

すぐに学校に行くつもりがなくとも、担任の先生や同級生が学校に来ないことをどう思っているか、もし学校に行ったとしたらどんなことを言われるか、というのは気になるものであり、それを放っておくとやがて不安や恐怖になっていくことがありますが、担任の先生がどんな人かわかっていて、学校では今どんなことをやっているのか耳に入ってくるようになれば、学校への見方が少し変わってきます。

学校の人間関係をどのように広げていくかについては、不登校のきっかけやその子の状態によっても様々に変わってきますが、担任の先生の家庭訪問など学校を離れたところで個人的な繋がりを持つことや、学校内に親しい友達がいる場合は遊びに来てもらうなどのことが考えられます。

またいきなり教室への登校が難しい場合には、保健室など別室に登校し、養護の先生やスクールカウンセラー、あるいはクラスメイトなど学校の中で安心できる人や居場所を作っていくという方法もあります。

別の調査*2では、実際に、学校が家庭と協力して子どもに働きかけることで不登校の改善に特に効果があったことが示されています。いきなり周囲の子と同じレベルのことを要求せず、子ども個人に合わせた柔軟な対応を行うことが大切です。

「指導の結果登校する又はできるようになった児童生徒」に特に効果のあった学校の措置

*2平成26 年度「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」について 文部科学省初等中等教育局児童生徒課

こうしたプロセスを踏むことにより、どんな人がいて自分をどう思っているか全くわからないというレベルから、なんとなくイメージがつくというレベルまで認識が変わって来ます。

学習についての考え方も同様に、全く準備せずに再登校に臨めば、挫折感ばかりを残す結果になりかねませんが、一教科だけでも学校の学習進度に追いつかせてあげたり、得意教科があることを見出してあげたりすることで、不安を解消していくことができます。

対他不安への対処とは、「恐ろしいもの」と捉えている外部の環境について、認識を変え、段階を踏むことによって攻略可能なものにしていくことなのです。内的な気力の充実と共に、未知だった外の環境が明らかになってくると、相乗効果的に自信がついてきます。

再登校のきっかけは

再登校の直接的なきっかけになること、学校の勉強に追いついたこと、学校の協力により人間関係が改善したこと、家庭で生活リズムの改善に成功したこと、などそれぞれです。

中には、しっかり準備をして定期テストから学校に行った子、転校がきっかけになった子、学校の行事から人間関係になじめた子など、プラスにもマイナスにもなりそうな状況を自分自身のきっかけにして、再登校にチャレンジしてきました。

何がきっかけになるか、次々に試すより、助けて欲しいけどそれを言うことができない子どもの気持ちに耳を傾け、親子が一緒に歩んでいく同志の関係になることです。

そして、目の前の課題をよく見て、小さなステップに分割してどうやったら対応できるかを工夫することです。

心の内(対自不安)を見つめてもわからない時は、外(対他不安)に目をやってできることを探す、問題解決だけでは割り切れない気持ちがあるときには、再び心の内面に目を向ける、このような相互の対応を続ける中できっと今の状況にあった方法が見えてくるはずです。

これを機会に再登校のきっかけの探してみてください。

文・Allight Educational Consulting 代表 平栗 将裕

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