再登校を始めてから、完全に学校復帰ができるようになるまでの間には、「慣らし登校」という移行期間を意識的に設定する必要があります。これから再登校にチャレンジする親子にとって、計画の目安になるポイントをお伝えします。

登校刺激に強いストレスを感じる時

不登校が始まるときは、学校生活の負荷に耐えることができず、そこから逃れざるを得ないときに起こるものです。その時に心理的・情緒的に激しい混乱や身体症状をともなうか、あらゆることに無気力・無関心になるかは、反応の仕方の違いがあるだけです。根底には「学校に行かなければならない」というストレスがあり、それにうまく向き合うことができない状態があります。

「学校に行きなさい」「学校においで」と直接的に言わなくても学校に関する話題を問いかけることを「登校刺激」といいますが、ほんの少しの登校刺激に対して気持ちが荒れたり塞ぎ込んだりするような反応をするときには、ストレスに対して過敏な状態になっている可能性があります。

誰も学校のことを言わなくても学校のことが気になって仕方がない、口に出さなくても本当は学校に行かないことを気にしているに違いがない、というようにいつもそのことに注意が奪われ、落ち着いていられない状態が続くことがあります。

このストレスが高い時期に登校刺激をするということは、例えていうならば、コップに水がいっぱいに入って、水がギリギリこぼれずに耐えているところに、さら水を注ぐようなものであり、張り詰めていた感情は溢れ出してします。

気持ちが張り詰めていて、他のことを考える余裕が一切ないときに無理に考えさせようとしてもコミュニケーションが拗れてしまうだけです。これから先のことを一緒に考えていくためには、親も子もお互いに心の中に一定の余裕が必要であり、まずこの余裕を作り出す工夫が必要です。

しかし、不登校になってから時間が経過し、家にいる生活が当たり前になっていたり、学校の長期休みのように周囲も同じように休んでいる状況では、子どもの気持ちも次第に開放的になってきていることがあります。

考えたくない話題を避けることで、自ら心のバランスを保とうとするような時期になると、伝え方によっては以前ほど学校や進路の話題について抵抗感を示さなくなります。だからと言ってそのような話ばかりになると状態が後退してしまうこともあるので、余裕が出てきた時こそ、家族間のコミュニケーションを深めることが大切です。家族が同じ目線に降りて理解してくれ、味方になってくれる存在であるということが確認できると、徐々に本音で話せるようになり、親を頼るようになっていきます。再登校や今後の進路に向けて一緒に課題に取組んでいくためには、信頼関係をもう一度築き直していくことが、解決の近道になります。

ふと不安がこみ上げてきたとき

心の中に余裕が出来て気分も開放的に過ごしていても、ふと心の中に不安が浮かんでくることがあります。目の前の楽しいことや夢中になれることに没頭していると、自分のことを振り返って考える瞬間がありません。そのことが子どもにとって救いでもあることがありますが、一通り遊んで疲れ果てたとき、「このままでいいのかな…」と、ふとこれから先のことについて漠然とした不安が浮かんでくることがあると思います。

休息が取れて心に余裕が出てくると、嫌なことに対しても考える余力が湧いてきて、「勉強どうしよう」「もし学校に行ったらなんて言われるだろう…」「自分の人生はどうなってしまうのだろう…」という不安が心の中に生じてきます。

こういう観念に囚われると、どうすることが正しいのか不安でたまらなくなり、正しい答えを求めて堂々巡りの思考に入ってしまうことがあります。

親に対して「どうしたらいい?」と頻繁に答えを確認してくることがありますが、アドバイスしてあげてもあまり効果がありません。本人の中で「正しい」と思える答えが見つかるまでそれを探そうとしますが、実際には考えてわかる「正しい答え」というものはありません。

この時大切なのは、子どもの抱いている不安を理解しようとしているという姿勢を示し、本人の苦しさを取り除いてやろうとするのではなく、解決に向かって具体的な取組みを始めるように促すことが必要です。

例えば、本人の中には「学校に行った方がいいだろうけど、行きたくない!」という矛盾が生じてくることがありますが、まずこうした葛藤があることを話せる打ち明けられる相手が必要です。親が話し相手になってあげられる場合はまずは親が良いでしょうし、さらに親以外の信頼できる第三者に話ができるようになれば、本人の「頭の中の世界」に対するこだわりを手放せるようになってくることもあります。話を聞いてもらうだけでなく、相手の話から新しい知識や価値観を学んだり、次の行動に向けて計画や実行ができるようになると、新しい考え方が芽生えてきて、行動を起こすことに対して抵抗を感じなくなっていきます。

このように、自分の思考を行動に移すという歯車がうまく回ってくると、意欲が増し、より良くなりたいと思う気持ちが高まってきます。

過剰適応と回復力

意欲が次第に高まり身体にもエネルギーが戻ってくると、不登校だった自分から脱却して肯定的な自分に変わりたいという欲求が高まってくることがあります。

それ自体は良い変化に違いないのですが、「あるべき自分」の像に囚われ過ぎてしまうと、今の自分にできること以上のことを成し遂げようと無理をし過ぎて過剰適応という状態になることがあります。

例えば再登校を始めると、学校生活の中で、人間関係や学習や部活など生活の変化により疲労が溜まったり、時にはネガティブな気持ちになったりすることがあるでしょう。

しかし、本人としても「今度こそ学校に行かなければ」という気持ちもあるため、弱音を吐かないように頑張ります。親としても子どもの元気がなくなってくると「また行かなくなるのでは」と心配になり、「大丈夫よね?」と親自身の不安を確認したり、リズムを切らないために無理に登校させたりしてしまうかもしれません。

本人も自分自身で無理をしていることを自覚していたり、できないことがあることについて自分自身への批判を緩めようとするなど、自分のこだわりから距離を置くことができれば、適度な刺激を受けて生活が続けられますが、悪循環にはまり、過剰適応の状態が長く続いてしまうと、自律神経のバランスが崩れてきてしまいます。

自律神経とは、自分の意思で動かせる体の部位や筋肉をコントロールする体性神経系とは異なり、交感神経と副交感神経からなる無意識のうちに働く神経系のことです。

過度に緊張すると、心臓鼓動が早くなったり、息が荒くなったりします。交感神経は“闘争と逃走の神経”と言われており、身体機能を活発にしたり、心臓や肺など内臓に血流を集中させて、重要な臓器の機能を維持・保全する働きを持っています。これは外敵から身を守るために備わっている動物としての自然の働きと考えても良いでしょう。

逆に、副交感神経とは、身体をリラックスさせる働きを持っています。呼吸や血流も穏やかになり、全身に血液が巡るようになることで、栄養が行きわたり、老廃物などの疲労物質も回収できるようになります。

こうした二つの神経の機能が健全に働いているときには、疲れ果てるまで活動しても、次の日には回復してまた動き出すという生活ができます。しかし交感神経がいつも優位に働いていて、副交感神経に上手く切り替わらない状態が続くと、蓄積する疲労と回復力のバランスが取れなくなり、自律神経の失調状態へと進行してしまう恐れがあります。

再登校を始めて間もなくの期間は、「1日活動したら2日休まないと動き出せない」という状態になることがありますが、おかしいことではありません。1日分の疲労を、その晩のうちには回復できない状態になってしまっているので、「もっと頑張らなきゃ」「まだ大丈夫」とさらに自分を追い込んでいくと、いつしかエネルギーが切れて動けなくなってしまいます。

自律神経の働きは自分の意思ではコントロールできず、無意識のうちに交感神経が優位の状態が続いてしまうので、休息する瞬間、リラックスできることを生活の中に意識的に取り入れていく工夫が必要なのです。

意識的に休息を取り入れ、心の中を整理する時間が持てるようになると、次第に自律神経が上手く切り替わるようになり、回復力が上がってきます。登校が続かないという状況があるなら、いま持っている回復力とかかっている負荷のバランスを見直してみることも必要です。

過剰適応を乗り越えるために

過剰適応の状態を続けないためには、体調を確かめながら休息取るということ、そうして、もう一つ上のレベルを目指して改善に取り組むということの両方が必要です。

再登校を始めて、問題を一人で抱えるようになると家族とのコミュニケーションがなくなり、自室にこもりがちになることがあります。言われたくないことを言われるのを恐れて家族からも距離をとっているような状態です。

そうなると、家族としてもまた不登校になってしまうのではないかという不安から、厳しくしたり、親自身の不安な気持ちを払拭するために子どもからポジティブな言葉を引き出そうとしたりする悪循環が起こることがあります。

よりよい状態を目指しているのは子ども本人も親も同じであるため、期待をかけることは悪いことではありません。でもそれに囚われてしまうと現実が見えなくなってしまうため、「行き過ぎた」と感じた時には時々ブレーキを踏むようにすることも大切です。

子どもが思い詰めている時に、登校刺激をすることをやめて家族が理解を示すようになると、リビングに出てきて話ができるようになることがあるように、指導的な対応のみでは課題を乗り越えさせることはできません。

何か躓きがあったときには、子どもの感じていることに理解を示し、安心を与えて送り出すということを繰り返していきます。3歩進んで2歩下がるような動きというのは、後退しているようでも、着実に1歩ずつは前進しているのです。

初めから完全な登校を目指すのではなく、慣らし登校という移行期間を考え、徐々に体力や回復力を上げるための工夫を行なっていきます。その工夫の中には学習や心理的なケアだけではなく、生活リズムや食生活、運動の習慣の見直しなど、心と身体の健康を増進させていくという観点も含みます。

思った通りに上手くいかない時には、一旦休息をとって気持ちを落ち着けて、もう一度計画を考え直して頑張ってみるという良いサイクルを作り出す、あるいは、良いサイクルで回っていたことを思い出しそこに戻そうとする取り組みが大切です。

今できることから少しだけ上の段階にチャレンジしてみる、疲れてしまったら一旦休む、そしてまた動き出す、ということを繰り返すうちに、重圧に感じていたことが適正な負荷になり、それに伴って子ども本人の体力や精神力が向上してきます。

今よりも前向きな気持ちや健康な身体になりたいと思ったら、休めているだけではなく、あえて活動してみるという発想の転換が必要な時もあるかもしれません。

文・Allight Educational Consulting 代表 平栗 将裕

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