ポイント5 いつか何とかなると思わない

待っていても「いつか」は来ない

家族にとって最もつらい時期である進行期を抜けると、お子さんも家で好きなことをして過ごせるようになり、学校や勉強の話題を出さなければ「良好」な関係でいられるようになっていきます。お子さんが落ち着いてくると親としても「好きなことだけしていても、前の状態よりはいいか…」「刺激して逆戻りするのも怖いな」と、お子さんから一定の距離を置くようになることがあります。あるいは、お子さんの気持ちに理解を示し、励まし、やっと動き出したと思った矢先に、お子さんの状態が後退するようなことが起こると、親もこれまで積み重ねてきたことが報われなかったように感じ、「このまま見守っていれば、いつか何とかなるかもしれない…」とそれまでのかかわりをやめてしまったり、あきらめてしまったりする場合があります。
この時期というのは、進行期から混乱期に移行する間にある時期で、波風は立たないけれどもあまり変化がなく、時間だけが過ぎて行きがちなときです。お子さんの状態は安定しているように見えても、時間の経過とともに学習の遅れや生活リズムの乱れなど問題が加わり学校復帰へのハードルが徐々に上がって行っている可能性があります。

ここは不登校が長期化するか否かを左右する分岐点であり、学校復帰に向けて何らかの取り組みを始める準備が整ってきているときでもあります。
前向きな変化を作り出すためには「きっかけ」が必要ですが、「きっかけ」とは経験に他なりません。時間が解決してくれるというのは、時間と共に新たな経験をし、自分の中で体験を咀嚼し、新たな知識や価値観を吸収した結果、ひと回り大きく成長するからです。家に引きこもりがちな生活をし、家族以外の他人とのかかわりがなく、何も新しいことが起こらなければ、新たな経験に出会う機会が極端に少なくなります。何かのきっかけがお子さんを変えてくれる「いつか」を待ってしまうと、ずるずると時間が過ぎていく恐れがあるため、注意が必要です。

子どもの動きやすい方に方向づける

いざお子さんを動かそうとしたときに、なかなか動いてくれないことに困っている親御さんは多いと思います。しかしそこで振り返って考えてみなければならないのは、「親が動かしたい方向に無理に動かそうとしていないか」という点です。例えば、「友達と遊ぶことができるようになったのはいいけれど、勉強はしてくれないな…」「家で勉強するようにはなったけど、外出はできるようにならないんだよな…」と、できない方に目がいき、できない方をやらせようとしてしまいがちです。しかし、お子さんの個性によって、またその時の状態や時期によって、動きやすい「方向」というものがあるのです。

図4は、天地に「目的」を持つことについて、左右方向は他人との「交流」について心の態度が積極的か消極的かということを表しています。もちろん、「目的」にも「交流」にも積極的になることが理想ではありますが、いきなり右上の「目的積極―交流積極」の状態を目指すことはできません。不登校とは、学校生活の中で頑張り続けることができなくなり、やむを得ずそこらから逃避して身を守る行動ですから、不登校になって間もない頃は、「目的消極― 交流消極」の状態にあるのです。
けれども、家の中では安定してきて好きなことができるようになったなら、できるだけ抵抗感が少ないことから生活の中に取り入れていくことが必要です。ただ単に好きなことをさせるのではなく、心の態度が「目的」を意識するような事柄か、他人との「交流」に向かって広がっていくことがらであれば何であっても構いません。

例えば、お子さんに興味がある所なら外出ができたり、以前からの友だちとなら遊べるという状態であれば、比較的他人との「交流」の方が目指しやすいということになります。そうした状況ならば、家族や友だち以外の第三者を家庭の中に招き入れるということを考えて良いでしょう。ここで勉強をさせようと、その時に苦手な方に方向づけようとするとなかなかうまくいきません。それよりも親しみやすい第三者と遊びを通して「交流」し、信頼関係が作れてから、「一緒に勉強やってみようか」と声をかける方がずっと受け入れやすいのです。
お子さんが直接勉強に関係のないことに興味を持ったからといって、今後も勉強に気持ちが向かなくなるということではありません。何か興味を持ったことを突き詰めていくと、「自分の好きなことを誰かと分かち合いたい」という気持ちが出てくることがあります。一方、勉強は頑張りたいけれど、他人と会うのはどうしても嫌だという子もいます。そういう状態だとしても勉強を進めていく中で、「もっとできるようになりたい」という目的を持つと、「人に教えてもらった方が早いかな」「塾みたいなところに通った方がいいのかな」と考えを巡らせて、「目的」を達成するために、結果として他人との「交流」が生まれるという場合もあるのです。
大切なのは、「勉強させたい」「他人とかかわらせたい」と直接次の成果を狙うのではなくて、いまできること、やりやすいことをより活発に進めていき、お子さんからアドバイスを求められたときや行き詰って立ち止まったときに、もう一つの方向からの提案をしてみるとことなのです。

◎ネットやゲームについて

家にひきこもりがちな生活をしているとき、一日の大部分をネットやゲームをして過ごすことは珍しくありません。このネットやゲームが好きなことであるからどんどんやらせて良いかというと、直ちにそうではありません。禁止した方が良いのかというとそれも違います。
ネットやゲームそれ自体が面白くてネットから新しい知識をどんどん吸収していったり、ゲームのレベルやランクを誰にも負けないぐらい高めていったりするなど、「目的」を持って積極的に利用していることは非常に稀です。
ネットやゲームは、本来やらなければならないことや直面して考えなければならないことから逃避するために使っていることがほとんどです。そのような状態から抜け出した子たちに後になって話を聞いてみると、多くの子たちが「ネットやゲームをしていても楽しくなかった」と答えます。決して熱中しているわけではなくて、何も考えないようにするための逃げ場所なのです。
いずれはネットやゲームをコントロルする術を本人が身に着けていかなければなりませんが、禁止をする前に、そこへ逃避せざるを得ない本人の気持ちを理解していかなければなりません。
ネットやゲームは現実の生活が充実するに従って相対的にそこに触れる時間が減り、コントロールしやすくなっていきます。制限をかけることを直接狙っていくのではなく、お子さんの気持ちの理解し、日常の親子のコミュニケーションを通し、生活の中にネットやゲーム以外の経験を加えていくことが先決です。

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